大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(う)2536号 判決

被告人 前原昭夫

〔抄 録〕

弁護人の控訴趣意第一点について、所論は、被告人が原審相被告人峯岸、田中らと共謀若しくは被告人単独で、原判示松葉会の威力を背景として、原判示第一ないし第三の各恐喝を行つたとの事実を認定しながら、その松葉会が政治結社であることを判示しただけで、それが各相手方を畏怖せしめるに足りる勢威を有する団体であつたか否かについては何ら判示するところがない。してみれば、原判決の認定した被告人に対する原判示各恐喝の事実は、果していかなる理由により恐喝罪を構成するものかを明らかにすることを得ないもので理由不備の違法がある、というのである。

原判決が原判示各恐喝の事実を判示するについて、被告人が原審相被告人峯岸、田中らと共謀若しくは被告人単独で原判示松葉会の勢威を背景として各相手方を恐喝したとの事実を認定判示しながら、その松葉会が政治結社であることを認定しただけで、同会が果して各相手方を畏怖せしめるに足りる勢威を有する団体であつたか否か、従つて又各相手方が松葉会の存在によりいかなる畏怖を感じたかについて、説明の尽さないものがあることは所論のとおりである。然し、原判決摘示事実をその挙示引用の各証拠と対照すれば、原判示松葉会なるものは、表面政治結社を標榜しながら、その実は、前科者、やくざ者の集団であつて、所属団体員はいずれも定職に従事せず、平素から乱暴を働き、右団体を背景として恐喝等の所業を常としている徒輩で、従つて同会はかかる違法な勢威を示し、世人にいみきらわれているいわゆる暴力団体であつたこと、従つて、被告人が共謀又は単独で原判示松葉会の勢威を示して各相手方を恐喝したというのも、同会が前記の如き暴力団体であることを原判示各相手方に暗に知らしめ、同人らに対し、被告人ら若しくは被告人の原判示各要求に応じなければ、被告人らの所属する右松葉会により国鉄上越線増線工事に従事中の原判示各土木建築業者各現場係班長らの担当する事業の運営に支障を来すべき危害を加え(原判示第一事実)、或いは、原判示第二の赤川清太郎及び同第三の三島義正の身体、財産等に危害を加うべき旨の各害悪を告知し、同人らをしてその旨感得畏怖させたことを、各その恐喝の内容としているものであることを容易に知り得べく、原判決が被告人に対する原判示各恐喝罪を構成すべき行為として認定判示したところも、右と同旨に出たものであることは、原判決自体に徴し了解できるところである。原判決の説示に言葉として足りないもののあることは、既に見たとおりであるが、この点をとらえて、直ちに、原判決に所論の違法が存するものとは、未だ認められない。なお、恐喝罪の事実摘示としては、人に畏怖心を生ぜしむべき害悪を告知し、それに基いて財物を喝取した事実が明らかにされていれば必要にして充分なものというべく、害悪の内容としてそれがいかなる法益に対する侵害又は侵害の危険を告知するものであるかについて、その法益を特定明示しなければならないわけのものではないと解すべきである。従つて、論旨はすべて理由がない。

(三宅 井波 谷口正)

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